探偵見習いと化け猫」各章・・・・・・・・・。」   

 第十二章


「まだ、動けないようだな。聞こえているのか。聞こえて無いようだな。まあ、聞こえていようが、いまいが、まあ、いいか、動けるまで待ってやろう」

「鏡お兄ちゃん。静お姉ちゃん。助けにきたよ。大丈夫」

天猫は、二人の危機に間に合った。

「おおっ、お前は、二人を助けに来たのか。んっ?」

「俺が相手になる」

「あっはっははは、お前は、あの時の子猫か、前は、若すぎて相手にもならなかったが、今度は、爺かぁ。まともに歩けるのか、大丈夫なのか」

「うるさい」

「うっううう」

 鏡と静が呻き声を上げた。

「おお、主は動けるようになってきたようだぞ。待っていてやろうか、それとも」

 獣が、そうつぶやくと、尻尾は、二人めがけて振り落とそうと向かってきた。

「ぎゃん」

 天猫は、二人を助ける為に、自分の体で尻尾を受け止めた。勿論受け止める事が出来るはずもなく、天猫は、数十メートルも飛ばされた。

「わっはっはは」

 獣は、予想通りの行動だったのだろう。高笑いを上げた。

「天、大丈夫か?」

「天ちゃん。大丈夫なの?」

 天猫の悲鳴が聞こえたのだろうか、それとも偶然なのか、まだ身体は動けないようだが、必死に声を上げ安否を確かめた。

「おお立ち上がったか、身体は頑丈になったようだな。だが、フラフラだぞ。大丈夫か」

「うるさい。お前を倒す」

「威勢がいいな。そうかあ。今度は、如何するのかな」

 又、獣は尻尾を振り回した。

 二人は動けるようになると、殺気を感じたのだろう。直ぐに戦う構えをした。だが、同時に獣の尻尾が鞭のように襲い掛かってきた。そして、直ぐに尻尾が届かない所まで移動した。安心したのだろう。二人は天

猫に視線を向けた。

「天、久しぶりだな」

「天ちゃん。大きくなったわね。少し怖い位よ。もう、抱っこは出来ないわね。残念だわ。それよりも、身体は大丈夫なの?」

「再会を嬉しがるのも良いが、これは逃げる事が出来るかな」

「天」

「天ちゃん。逃げて」

 今度は、天猫に尻尾を向けた。だが、立っているのがやっとだったのだろう。

「ぎゃにゃあ」

 天猫は、逃げる事が出来なかった。そして倒れると、立ち上がる事が出来なかった。

「天、大丈夫か?」

「天ちゃん。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。まだまだ、大丈夫。今度は、俺が、鏡お兄ちゃんと静お姉ちゃんを助ける番だからね。俺、強くなったよ。安心してよ」

 天猫は死ぬ気で立ち上がった。

「天猫さん。お二人さん。早く、こちらに来て下さい」

 女性の姿は見え無いし場所も特定が出来ない。もしかすると辺りに全てに響いているようだ。その証拠に獣も、天猫も鏡も静も辺りを見回したからだ。

「また、邪魔が入ったようだな。その老猫に免じて、今回は引いてやろう。老猫とは完全な身体の状態で戦いたくなった。早く完治しろよ」

「何をしているの。早く、いらっしゃい」

「何をしている早く逃げるが良い」

「こっちだよ」

 天猫は、二度目の言葉で場所の判断が出来たのだろう。何も無い空間に、二人を導いた。そして、天猫は、首を振って場所を教え、二人が消えるのを確認すると自分も飛び込んだ。

「ありがとう」

 最後の天猫が消えると、女性の声が響いた。何故、そう言ったのか分からないが、その声色で判断すると心底からの感謝の気持ちだけだと思えた。

「天ちゃん。ここは何処なの、それより、身体は大丈夫なの」

「天、本当に大丈夫なのか、それにしても、ここは何処だ?」

「なんか、猫の天国と言われたよ?」

 二人は、まず、直ぐに後ろを振り向いた。獣がまだ居ると思ったのだろう。殺気を放ちながら振り向いたが居なかった。あるのは、扉のない入り口、それも真っ暗だった。暫く、それを見つめていたが、友の身体が

心配だったのだろう。それを、先に優先した。

 天猫も、先ほどは二人の事だけを考えていたからだろう。やっと周りを見て、二人と同じように驚きを感じていた。

「天国?」

「そうなの?」

「そうだよ。静お姉ちゃん。猫の天国らしいよ」

「それにしては、安らぎを感じるような所では無いな」

 部屋は真っ白で清潔感だけを感じる雰囲気で、診察台のような物だけが中央に置いてあり。その周辺には心電図を調べる。いや、もっと脳波まで調べられる程のコードなどがあり。壁には様々な映像を映す画

面や操作盤などがあった。そして、二人と一匹は会話を楽しんでいるようにも思えたが、視線だけは、ここに来た入り口では無く、一つだけある扉を見つめていた。

「そうね。私も、天国って花畑などあると思ったわ」

「静、猫ならマタタビの林で無いのか、ふっふふ」

「まあ、鏡は綺麗な女性が居れば、どこでも天国でしょうね」

 静は笑われたからだろう。一瞬だが、顔をしかめた。

「どう言う意味だ」

「天ちゃんも男だけど、鏡みたいな男にはならないのよ」

「二人は、今、椅子を出しますので、暫くの間、座って少し待っていて下さい。それより、天猫さん。身体を診ますから、扉から入って、こちらに来なさい」

 女性は姿を現さなかったが、二人の険悪な雰囲気を和ます為で無いだろう。だが、良い頃合に話しを掛けてきた。話が終わると、壁からゆっくりと簡易椅子が現れた。

「いいわよ。行って来なさい。ここで待っているから大丈夫よ」

「俺達は、何とも無い。少し寝すぎたような感じがするだけだ。安心しろ」

「うん、診てもらって来る」

 天猫は、扉の方に歩き出した。すると、扉は自動で開いた。静かは、それを見ていたが、扉を開けてくれ無い。そう感じたのだろう。開けようとして一歩だけ踏み出すだけだった。

「もう、我慢しなくていいのよ。死ぬほど痛いでしょう。そのクッションの上に横になりなさい。直ぐに細胞の修復時間を早くしてあげる。直ぐに治るわ。でも、私がいいと言うまで目は開かないでね」

 天猫が横になると直ぐに部屋中が黄色い光に包まれた。

「もう、目を開けていいわよ。でもね。身体の傷は直ぐに治して上げられるけど、死期は変えられないのよ。それに、今回の事で死期は早くなったはずよ」

「分かった。二人には何も言わないで下さい」

「言わないわよ。でも、もう、ここで最後を迎えなさい」

「それは出来ないよ」

「何故なの?」

「長く生きると分かるよ。お姉さんもそうでしょう。歳を取り死期が分かると、余計に、何かをしたくなる。分かるよね。それで、お姉ちゃんは猫なのでしょう。私は、鏡お兄ちゃんと静お姉ちゃんなのだよ」

「二人には、私が出来る限りの事はしてあげるわ。お願い。ここに居て」

「なんで、そこまで」

「天猫さんの大人になった姿を見ると、私の親代わりをした猫と同じなの。私、今まで、猫以外に生きている者には会った事が無いの」

「え、まさか、その猫の名前は、竜男。たつお、でないよね」

「えっ何で分かるの」

「やっぱり、俺の父だよ」

「嘘」

「本当だ。俺、ここに一度、来た事あるよ。父さんと母さんと俺でね。記憶は無いけど、この都市のはずだよ。出る時、父さんは居なかった。母さんと鏡お兄ちゃんと一緒だった」

「え」

「あああ、鏡お兄ちゃんは、ここの人だよ」

「鏡って擬人よね。それって、どの位前の事なの。調べてみるから教えて」

「俺が生まれて間もない頃だから千五百年くらい前かな」

 そう、言われると、壁面にある機械を操作した。

「擬人が居た記録は無いわよ。それって本当に、ここの都市の事なの?」

「父さんが居たって事は、この都市の事だよ」

 女性と天猫には分かるはずも無かった。当時の事や昔に理由があった。今は、当然のように輝いている月は、何万年前には無かった。月人と言われていた人々の箱舟だった。何故、この星に来たか理由は分

から無いが、恐らく、自分達の星が住めなくなったからに違いない。それでも、星に、いや、楽園に着いたと言うのに直ぐに降りる事はしなかった。楽園を自分達の星と同じにしたく無かった為に、必要な時だけ降り

れば良いと、だが、それは、長くは続かなく、楽園に住む。住まない。それで、言い争いが起こり、月に残る者と楽園に住む者とに分かれた。そして、また、時が流れ、同じように同族で言い争いが起きた。今度は

月でなく、楽園に向かう時に使用した。都市、いや、都市型の船と言う物の中で争いが起きた。都市に残る人々と降りる人々に分かれてしまった。なら、何故、この星の主になってないのか、そう思うだろう。元々

、自分達の星が住めなくなった段階で、滅びる運命だったのだろうか、星に降りると出産の低下が始まったのだ。それでも、労働力と人々の補佐の代わりに獣人を造り繁栄するかと思われたが、滅びの歯車は止

まらず。最終手段として、自分達の遺伝子と猿の遺伝子を使い擬人を造った。心の安らぎと子供の代わりとして、だが、その為に致命的な諍いが起こってしまった。何故、何が起きたのか、そう思うだろう。遺伝子

が繋がっているのだから考えられるはずだったのだが、月人と擬人が結ばれたのが原因だった。その結果、純血族だけで生きる者と、擬人、獣人と、共に生きる者とに分かれる事になり。純血族だけで生きると

考えた者だけを都市に残し、都市から出て行ってしまった。その時に、都市に残った純血族は、今頃になって箱舟の事を思い出され、助けを求めようとしたが遅かった。月が動いていないのだ。人口重力を造る為

に月が回っていないと行けないのに、止まっているのが分かった。もう誰も生存しているはずが無い。そう考え、都市の人々は滅亡する。それを感じながら、それでも、生きる希望を無くすはずも無く、この地に体

が合わない者は、遺伝子を組み替えて都市の外で生きる事を決めた。その時、羽と赤い感覚器官を無くした。それが、鏡、静達の祖先だったのだ。そして、第二の月の箱舟が来ると信じて生きていた。そして、月

日が経ち、都市に住む者は、父と娘だけが最後に残った。父も最期の希望だったのだろうか、それとも、娘が一人で生きなければならない。その悲しみが分かっていたからだろう。輝くと書いて。ひかる。と娘に名

前を付けた。全ての出来事が楽しい輝く思い出になるようにと、そう感じられた。それほど、大事に思っていた娘の為だからだろう。都市から出てまで擬人や昔の同族から乳を分けて貰っていた。その女性の子供

が鏡だった。それから、何ども村に行き乳を分けて貰っていたのだが、乳離れする頃になると、その女性は流行り病で亡くなり。その子供は天涯孤独になった為に、子供を都市に連れてきて育てた。そして、父も

死期が近いと分かると、獣族の誰かに後を頼もうと都市から指示を送った。だが、それは、無理だと感じていたが、願いを込めての指示だった。まだ、擬人、獣人と共に暮らしている時なら絶対服従の指示なのだ

が、都市から出る時に、それは解除されていたのだった。それは、変だ。危険だ。そう思われるだろうが、二手に分かれた同族は、共に生きると考えた者に強制指示を認めるはずも無く。それで解除したのだった

。それでも、何故だが、猫族だけに伝わり、一家族だけが都市に現れた。それが、天猫の家族だ。父は、命が尽きる間際に天猫の家族に全てを伝え、息を引き取った。鏡だけは、擬人と共に暮らす事が一番だろ

う。そう考えられ、鏡と天猫と、天猫の母とで都市から出された。

「そう、なら確かめたい事があるわ。正面の入り口なら全ての記憶が残るはず。鏡が入れれば、居たと判断が出来るわ。それに、天猫さんにも見せたい物があるわ。竜男の墓をよ」

「え」

「お墓お参りしたくないの」

「したいです。お墓参りしたいです」

「そうよね。なら都市の外に出るから、鏡と天猫さんで、私の後を付いて来て」

「静お姉ちゃんだけを残して行くの?」

「無理よね。いいわ。皆で、私の後に付いて来て」

「はい。今、連れて来る。少し待っていて」

 天猫は、扉に向かい。また、自動で開いた。そして、二人の前に行くと、「天の父の墓参りに行くから一緒にきてくれない」そう、簡単に用件だけを伝えた。

「そうかあ、俺も天の父に言いたい事があるから、喜んで行くぞ」

「私も行きたいわ。気にしないで」

 その言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべ歩き出した。二人の男女は、扉の前で一瞬だけだが戸惑った。扉が開か無い。そう感じたからだろう。

「なら、行きましょうか」

「こんな所に猫がいるぞ」

 扉が開くと、足を置こうとした。その真下にクロ猫が寝ていた。それは、会員番号二号だった。恐らく、シロと楽しい夢でも見ているのだろう。それには、天猫は気が付かなかった。だが、もし気が付いたとしても、

幸せそうにしているのを壊すはずもなく無視しただろう。

「それは、そうでしょう。猫の天国よ」

「それは、そうだな」

 輝は、確認も取らずに歩き出した。そして、光も点ってない細い道を進み。その間に大小の何も無い部屋があった。もしかしたら倉庫に行く道だろう。何故、そう思うか。と言うと、何も無い広いだけの室内が何部

屋もあったからだ。まだ、都市として機能していた時の食料などを貯蔵していたはずだ。その両脇の道を奥へ、さらに奥へと進み。突き当たりまで進んだ時だ。

「着きました。ここから外に出ます。風が強いと思いますので、身に着けている物が飛ばされないように注意して下さいね」

「うぁああ」

 輝に言われていたが、想像していたよりも風が強く、輝、以外の者は声を上げてしまった。輝だけは人工的に起こしている風だと分かっていた。恐らく、都市の空調などを調整するための機械だろう。そして、今

度は、都市の周りを歩き正面の入り口に向かった。

「天猫さん。あれよ。ここで待っているから、私は、後でお参りしますわ」

 輝は、天猫に言った。と、言うよりも二人の男女に言ったように思えた。言わなければ、天猫と一緒に行くと感じたからだ。

「あっ」

 鏡は、静に手を?まれ、意味を悟った。

「天ちゃん。私達の事は気にしないで、ゆっくりと話をしてきなさい。

「うん。ありがとう。でも、直ぐに帰ってくるよ」

 そう言うと満面の笑みで向かった。輝は、時間が掛かる。それは分かっていたのだろう。暫くしてから、二人に話しを掛けた。

「あのね。連れて来た理由は、墓のお参りもだけど、鏡さんには、そこにある門に入って欲しいの。天猫さんの話しでは、この都市に居たらしいと聞いたわ。それを確認する為に、門に入って欲しいの」

「俺が、この都市に居た?」

「鏡が、ここに?」

「そうみたいなの」

「何で、なの?」

「理由はないわ。私が確認して安心したいだけよ」

「あの、そうでなくて」

「静さんでしたね。何かしら」

 静は、違う意味で問い掛けた。何故、この都市に居たのか、それを聞きたかったはず。でも、故意に、話を逸らしたように感じて、再度、問い掛ける事は止めた。それは、静の考え過ぎだった。だが、輝は、天然

だが、正確に答えられないのも確かだった。

「天ちゃんとは、面識があったの」

「無いわよ。天猫さんの、父が、私の育ての親なの」

「そうなの」

「ほう」

「鏡さん。それほど、驚かなくても、天猫さんの話しでは、鏡さんも、天猫さんの母さんと一緒に旅をしていたのでしょう」

「えっ鏡。本当なの?」

 静は、この都市に来てから驚きの連続だったが、今の話が一番の驚きのようだ。

「俺は知らない。初めて聞く話だ」

 三人で話しをしていると、天猫が頭を下げながら帰ってきた。丁度良いと言うのか、一番肝心な所を邪魔したとも思えたが、それ以上の話しをするのを、三人は止めた。

「天ちゃん。おかえり」

「天。天の母さんの事だが」

「え。何?」

「鏡。今は、その話は止めなさい。天ちゃんも、もう一度お参りしましょう」

「うんうん」

 輝は、二人と一匹の方を見つめていた。初めて男性を見たからか、人を見たからか、どちらでも無いはずだ。天猫を見ると竜男の事を思い出してしまい。涙を浮かべてしまうのだろう。一人と一匹だ。それに、天

然のようだが心が優しい人だ。本当に大事に、愛されて育てられたのだろう。それは、輝を見たら分かるはずだ。

「待たせて、ごめんね。入り口の所に行こう」

「もういいの?」

「うん」

「そう」

「俺が、あの扉に入れば良いのだろう。ええっと、何て名前でしたかな」

「ああ、言って無かったわね。ひかる。輝くと書いて、ひかるよ」

「俺は、きょう。鏡と書く。隣の女性は、静だ」

「よろしく、ひかるさん」

「大人しく無い女性だが、静と書いて、しずか。と言う」

「何よ」

「鏡お兄ちゃん。静お姉ちゃん。いい加減に行こう。輝さん。呆れているよ」

「ゆっくりでいいわよ。正面の入り口から入るだけだしね」

「そうかあ」

 鏡は、胸を撫で下ろしたような気持ちになっているのだろう。誰でも、訳が分からない事をさせられると思うと、恐怖心が湧き上がってくるはずだ。

「鏡。何をして居るの?」

「鏡お兄ちゃん。いい加減に行こう」

 静と天猫は、鏡が、輝に色目でも使っている。そう感じて催促した。

「はいはい。行きますよ」

 肩を竦めると、鏡は歩き出した。

「静お姉ちゃん。先に行っているよ」

 天猫は、遊んでいるかのように駆け出した。

「身体は大きくなったけど、天ちゃんは、昔のままね」

「昔から知っているのね」

「そうね」

「ねえ、静さん。天猫さんは、お父さんに会いたいとか言っていませんでしたか」

「まったく話題にした事は無いわ。生きているとも亡くなっているとも知らなかったしね」

「私の為に、お父さんに会えなくて、死に目にも、亡くなっているのも分からなかったのよね。寂しかったわよね。怒っているでしょうね」

「怒っているかもしれないけど、寂しくは無かったと思うわ」

「怒っているのね。それで、この都市で暮らしたくないのね」

「たぶん、怒っている意味が違うわよ。お父さんに怒りを感じているはずよ。何の連絡もしないからでしょうね」

「そうなの」

「そうね。でも、今の話をしたら本当に怒るわよ。あのね。今の天ちゃんをみて思ったのだけど、今では、私達の方が若いのに、お姉ちゃん。お兄ちゃんと言うのは、兄弟と思っているのよ。もしかしたら、輝さんは、

妹と思っているのかもね。妹なら父が一緒に暮らすのは当然でしょう」

「うん。ありがとう」

 輝は、今の話を聞いて安心したのか、心底から嬉しかったのだろうか、涙をぽろぽろと流しながら嗚咽を漏らしていた。

「泣かないで、天ちゃんに、私が怒られるわ」

「うんうん」

「そろそろ入り口よ」

「大丈夫。それまでには涙を止めるから安心して」

 二人が立ち止まったからだろう。天猫が駆け寄ってきた。

「如何したの。遅くて、鏡お兄ちゃん。怒っているよ」

「直ぐ行くって言って」

「うん。あっ、何があったの。目が赤いよ」

「もう、天ちゃん。男には分からない、女性の悩みなの」

「うん。分かった。鏡お兄ちゃんに直ぐ来るって伝えるね」

 天猫は、静の癖のような言葉を聞き、怯えるように入り口に向かった。

「遅かったな。俺の悪口でも話しでもしていたか」

「そうよ。よく分かったわね」

「鏡お兄ちゃん。違うよ。男に分からない、女性の悩みだってよぉ」

「それが、悪口なのだよ。女性の悩みって言うと、男の悪口って決まっているのだぞ」

「なら、天の悪口も言っているのだね」

「大丈夫。天ちゃんの悪口は言ってないわ」

 天猫と話しをしながら、鏡には片目のまぶたで合図を送った。鏡が何か合ったと思い。あのような事を話し出したのだろう。それが分かり、「鏡、話しをそらしてくれて、ありがとう」でも、伝えたのだろう。それは、

鏡も同じ合図をしたから伝わったようだ。

「そう」

「話は、それ位にして、俺は如何すれば良いのだ」

「ねえ、輝さん。如何したらいいの」

「あっ、手の平で、扉を二度ほど叩いて下さい。それで、開くはず。でも、開かないと思うわ。試してくれるだけでいいの」

「うぉ、開いたぞ。良いのか」

「う〜ん。天猫さんの話しは正しかったのね」

「何だって」

「何でも無いです。どうぞ、お入り下さい」 

「うぉ、光が点いたぞ」

 鏡が、一歩、床を踏むと、導くように廊下を光が照らした。それと同時に驚きの声を上げたが、静と天猫は、光によりも、鏡の声の方が驚いたようだ。

「うぁわあ、猫が沢山いるわね。寝ているようだけど歩いたら起きないかしら」

 大げさのようだが、廊下の隅や真ん中と、人が真っ直ぐには歩けないような所に猫が寝ているのだった。

「気にしないで、光が点灯している廊下を進んで下さい」

「ねえ。聞いていいですか」

「何です、天猫さん」

「父の像、何処かで見た感じするのだけど、気のせいかな」

「そうそう、私も、それ気になっていたの」

「あると、思うわよ」

「ええ、まさかって考えていたけど、あの溶け崩れていて何の像かわからない。あの来る時に触った。あの像なの」

「そうですわ」

「像も綺麗だったし、花も飾っていた。それに、周りには花も咲いていたね。もしかして、輝さんがしてくれたの」

「そうよ。綺麗って言ってくれて、私も嬉しいけど、かなり汚れているでしょう。もう、作ってから何百年も経っているのよ」

「ありがとう」

「いいえ。私の父と同じだし当然よ」

「千五百年後には、この都市も無いのか」

「馬鹿、鏡、何を言っているの」

「そうね。でも、都市って言っても、これ船なのよ」

「嘘、船なのか」

「でも、天ちゃん。良かったわね。千五百年後にあって、それに、何の像か分かって無いだろうけど、守り像みたいに思われているから大事にされていたのね」

 静は、鋭い視線で鏡を睨み、故意に鏡の話しを無視した。

「うん」

「この都市は、いろいろな時の流れや他空間には行けるわ。都市の中なら時間の流れも遅いけど、その頃になると、私は死んでいるのね」

 輝は、ぼそぼそと、独り言をつぶやいた。

「違うよ。結婚したから、船で綺麗な花が咲いている所に行ったのだよ」

「天ちゃん。そうね。そうよ」

「ありがとう」

「おっ、廊下の光が途中で消えているぞ」

「あっ、光の点いている部屋に入って、軽い食事を用意しますから」

「おお、腹が空いていたのだ。ありがとう」

「鏡。失礼よ」

「ありがとう。輝さん」

「いいのよ。気にしないで、椅子に座って待っていて、ああ、ごめんなさい。天猫さんは、そこにある、ソファーに寝ていて。天猫さんの父が好きで寝ていたのよ」

 三人と一匹は部屋に入った。部屋と言うよりも、監視室と休憩室が一緒のような部屋だ。何故だろうか、この部屋だけが生活感が感じられた。お気に入りの猫が居るのか、一人だから入り口の監視が必要なの

だろうか、すべて違うだろう。恐らく、父とも友達とも思っていた。竜男が、天猫の父が最後に居た場所だろう。

「うん。ありがとう」

「座って待っていましょう。あらら、ここにも猫が居るのね」

 椅子を引くと、太ったシロ猫が寝ていた。

「何処にでも居るなぁ。やっぱり猫の天国なのだな」

「そうね。何匹いるのでしょうね」

「猫ですか、そうね。五千匹は居ると思うわ」

 輝は、食事を出すのに時間が掛かると思ったのだろう。先に飲み物を持ってきた。

「うぁわあ。脅かさないでよ。聞いていたの、凄い数ね」

「それほどの数では餌を与えるのは大変でしょう」

「そうでもないわよ。この部屋に居る猫だけは、私が与えるけど、他の猫は、都市の機能が働いて、自動的に餌を与えてくれるから大変ではないわよ」

「そうなの」

「それで、天猫さんは、この都市に住むと思うけど、鏡さん。静さんは、これからどうするの。私に出来る事なら何でもしたいと思っているわ。もし、この都市に住むと言ってくれるなら、私も嬉しいわ。どうします?」

「俺は、この都市には住まない。さっき言っただろう。それにだ。俺が住んでいた所のシロに約束した。主の病気を治してやるって、でも、それが、終わったら、鏡お兄ちゃんと静お姉ちゃんが住むなら、俺も住みた

いな」

 天猫は、一瞬だが怒りを現した。何ども同じ事を言われたからだろう。

「俺は、身体が戻ったしなぁ。また、旅がしたいな。それに、海も心配だな」

「そうね。二人が幸せに暮らせる。それが分かったら、また、旅がしたいわね。でも、獣を何とかしないとね。ここ何百年は何もしてないようだけど、何かを考えているはずよ」

「そうだな。何とかしないと駄目だな。何かを起こすとしたら、海が住んでいる所になるな。そうなったら大変な事になるぞ」

「そうね。昔みたいに民家がまったくない森や林なんって無いしね」

「そうだな。現れる前に、あの変な所に行くしかないな」

「あの身体があった所ね」

「輝さん。お願いがあるのですが、聞いてくれますか」

「私に出来る事なら」

「お願いです。私達を、あの場所に連れて行く事は出来ますか?」

「出来ますわ。戦いに行くのですか、勝てると思って行くのね」

「俺達は退治屋だから何とかするしかないよ」

「そうね。今度は、天ちゃんもいるしね」

「そうだな、何とかなるだろう」

「あっ、でも、天猫さんは」

「大丈夫。頑張るよ」

 天猫は、輝が自分の寿命を言われると感じて、大声を上げて遮った。

「天猫さん」

「何かな」 

 天猫は、人を殺せるような視線で、輝を睨んだ。輝は、その意味が分かり言葉を飲み込んだ。それでも、輝は、命が心配で涙を堪えながら見つめ続けていた。

「輝さん。戦いが終わったら少し都市で休養していい」

「そうだな。それがいい。休養しながら何処へ旅をするか考えるのも、いいよな」

「そうね。そうしましょう」

「本当に生きて帰って来る。無理はしないのね」

 輝は、天猫に言ったのだが

「大丈夫だよ。まだ、死ぬ気はないよ」

「そうよ」

「うん」

 天猫は、真剣な顔で何どもうなずいた。

「私も、出来る限りの事はします。都市の武器を渡せたら、いいのだけど、都市の身分証と指紋の認証が無いと使えないの。何か使えるのがあれば良いのだけど、探してみるわ」

「旅の支度と食料だけでいいよ。後、あの場所に行ければ良い」

「大丈夫よ。行けるように繋げます。繋げたら、何時でも都市に帰れるから、食事も旅の支度も要らないわよ」

「おお凄いな、何処にでも行けて、宿も要らないのか」

「凄いって言われても、私、行きたい所も無いから意味ないわ」

「まあ、俺も行きたい所があって旅するのでないから意味が無いかぁ」

「そうね。何があるか分からないから行くのだしね」

「そうなの」

「そうだよ。野宿もいいよ。満天の星空が見られるよ」

「そうよね。天ちゃん。本当に綺麗よね。輝さんも、今度一緒に見ましょう」

「うん。見せてくれるのね。それなら、本当に無事に帰って来るわね」

「だから、大丈夫だって、心配しょうだな」

「それで、いつ頃、出掛けるの」

「食事を食べたら出掛けたい。どうする?」

「いいよ」

「私も、そう考えていたわ」

「そう、私の手料理をご馳走しようと思ったけど機械に任せるわ。適当に料理が出て来るから好きな物だけ食べていて、私、その間、何か使えそうな物を探すわ」

 輝は、二人と一匹に伝えると直ぐに機械の操作を始めた。それと同時に機械的な音が響いた。一瞬、皆は輝に視線を向けたが、慌てるようすが無い。それで、安心したと感じたのだろうか、ニヤと笑みを浮かべ

ると音がする方に歩き始めた。その後は、輝は機械の操作に夢中になり、二人と一匹も出てくる物を食べ、写真で紹介されている物を押すと出る。それが分かると、都市の食料を全て食べようと考えているように

口の中に押し込んでいた。

   「探偵見習いと化け猫」各章・・・・・・・・・。